私の人生はいつも待ちぼうけの日々でねぇ。とおじさんが言った。
はあ。と私。
いつも、来ないんだよね。待っていても。とおじさん。
はあ。と私。
待ち合わせしてないからね。とおじさん。
え?と私。
別に約束してないから。それは来ないよね。とおじさん。
それは、来ないですね。と私。
でも、もしかしたら来るかもしれないよね。とおじさん。
はあ。と私。
ゼロでは、ないよね。とおじさん。
ゼロでは、ないですね。と私。
煙草の煙がくるくるのぼる。
おじさん一つ聞いてもいいですか?と私。
こっちを見るおじさん。
なんだい?
なんで約束しないんですか?と私。
煙草の煙が固まって大きなシャンデリアのように見える。
そうだなあ。うん。もし、約束をしたら来ちゃうかもしれないからね。
遠くで半ズボンの破れる音が聞こえる。
それに、もし約束をしないでも、もしかしたら来るかもしれないからね。
はあ。と私。
こんな音で半ズボンは破れるんだな。
おじさんの足もとにはビスコのから袋が落ちている。
男の子の目が悲しく笑う。
しばらくしておじさんが言った。
もしかしたら、おじさんも誰かに待たれているのかもしれないね。
約束をしてないから、会えないだけで、誰かがおじさんの事を待っているのかもしれない。
はあ。と私。
その人は、おじさんかもしれないし。おばさんかもしれない。山から逃げ出した猿かもしれないし、住み捨てられたヤドカリの殻かもしれない。
はあ。と私。
そして、約束をしていないけどおじさんはおじさんに会うかもしれないしおばさんに会うかもしれないし、猿にひっかかれるかもしれないし殻に住むかもしれない。
はあ。と私
そう言うとおじさんは自分の吐いた煙を綱渡りでよじ登りシャンデリアを魔法の絨毯みたいにして飛んでいってしまった。
途中で破けた半ズボンが顔に引っ付いて、事故した。いてててて、と言っては、首尾よくシャンデリアに乗ってまた飛び出していった。びゆーーーーん!
私は一人ぼっちになってしまった。
そういえばなんで私はここにいるんだっけ?
足もとでビスコの少年がにっこり笑った。
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